もの書く猫

夢見の鳥 {Ⅱ}

 

d0310274_9385063.jpg



ブランドレル家は代々、明君を輩出してきた家柄だったが、その繁栄を確たるものとしたのは、

『ユングバルドの至宝』と呼ばれる二羽の鳥だった。

優美にしだれる尾までを測れば、人の身丈ほどもある、威風堂々たる大鳥で、その羽毛の放つ艶と輝きは、

光の加減で千変万化するために、白と黒のつがいは、それぞれ純白であって純白でなく、漆黒であって漆黒

でない、不思議な色あいをまとっていた。

彼らがゆるゆると波うたせる翼からは、さいはての空に揺らめくオーロラの幻影が生まれ出るかと思われた。


しかし、このつがいが「至宝」と呼ばれたのは、その優美な姿のためだけではない。

ブランドレル家の当主が眠っているあいだに、その体に触れて夢を見せるという、不思議な力を秘めているか

らだった。
 

黒鳥シグルは、これから起こるできごとを、
 

白鳥オリグルは、今は過去となったできごとを。


夢は暗示に満ちたものだったが、つねに真実を映し出すと言われていた。

そして、その夢を正しく読み解くには、神秘に呼応する力と、敬虔な心が不可欠である、とも。



                              ***



黄金の陽光と、深い緑に彩られた短い夏が終わり、城は秋霖に包まれるころだった。

その長雨が運んできたかのような難題に、若い君主の愁眉は開くことがない。
 

夢は彼に衝撃を与えたが、いつまでもそれに拘泥しているわけにはいかなかった。

一国を統べる責務は重い。

黒鳥が見せた夢は、近い将来、ほぼ的中するはずだった。




 フレゼリクは、代々の王がしてきたように、夢解きに心をかたむけた。

頭の中で、短い夢の一部始終をくりかえしたどっては、長々とため息をつく。

 
(やっかいな夢だ。やっかいな鳥め。なぜ、こんなまわりくどい夢を見せる?

私の、王としての力量をためしているのか!)

居ても立ってもいられず、寝椅子から起きあがると、止まり木に羽をやすめていた黒鳥と視線があった。

感情のない、それでいて底知れぬ叡智をたたえた、丸い瞳。


(なんという目だ。おまえはいったい何を望む?)
 
 

不意に芽生えた嫌悪の情をふりはらうと、フレゼリクは、ふたたび夢解きに思いを集中させた。
 

主が非のうちどころのない従者に死を与えるとしたら――

それは、彼がよほど重大な失態をおかすか、あるいは裏切りをはたらいた場合だろう。
 

だが、沈着で思慮深く、忠義心の塊のようなグィードに、この二つの理由があてはまるとは思えない。


(恋だろうか)

ふと、そう思った。

(運命の女にとらわれると、男は、別人のように愚かになるという。

たとえ、無双の勇者、比類なき賢者と呼ばれようと、そのために身を滅ぼした男は少なくない)
 


その時、扉がほとほとと叩かれ、ためらいがちなグィードの声が問うた。

「陛下、おやすみですか」





**********
(^ω^)
ご訪問、ありがとうございます。
「更新はいつ?」というお問い合わせをいただきました。
できれば、週2ペースで、火・金の更新を考えております。
あくまでも予定ですが、そのあたりを目安に、おいでいただければ嬉しいです。
そうぞよろしくお願いいたします。

by jalecat | 2013-04-02 10:26 | 夢見の鳥